ありんこ書房

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森博嗣「作家の収支」によせて、同人作家の依頼相場に関するブラックボックスの話

   

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読書感想文のつもりが批判的になってしまいました。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。

「作家の収支」を読みました

2015年の末に出版された比較的新しい書籍なのですが、
森博嗣さんの「作家の収支」を読みました。

森博嗣さんといえば、「すべてがFになる」に始まり、「スカイ・クロラ」は押井守監督の手でアニメ映画となり
大ヒットした売れっ子作家です。

で、この本はその森博嗣さんの作家人生における「収支」について
淡々と事実を綴ったエッセイです。
なかなかおもしろかったので、簡単に感想を書くことにしました。

事実だけが淡々と書いてある

売れっ子作家が収入のハナシをするということで、
もしかしたら自己啓発本に近い側面があるんじゃないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、淡々と「なにをしたらいくらもらえた」ということが並べてあります。

  • 原稿料があって、いくらもらえる
  • 印税という概念もあって、何%が相場で、何部売れて、これくらいもらえた
  • 紹介文とかでももらえるけど、少しだけだった
  • サイン会とかやってもお金が発生するけど、割にあわない
  • グッズ化とか映画化すると、その分もお金がもらえる
  • 結構仕事時間に対して良い収入だったよ

という具合に「なにをしたら、いくら入った」ということが
氏の実体験から淡々と書いてあります。

特に売れっ子作家としての自慢のような口ぶりもなければ、
「どうしたら売れっ子作家のように収入が得られるようになるか」というような話でもありません。
非常に特異なカテゴリのエッセイであるといえます。

支出についても同様で、何を経費で落とせそうとか、
取材旅行は出版社持ちだからタダだとか、
パソコン一台で執筆が成り立つので人件費もかからないから支出がそもそも少ないとか、
やっぱり淡々と氏の作家人生に基づく淡々とした事実が書いてあります。

ただ、「次々書け、賞の結果を待っている間に2本3本仕上げないと話にならない」など
コンスタントに作品を出す大切さは要所要所で説いているので、
なんだかんだで作家としての情熱は随所に感じますし、「作家を志す人」への教授的内容はしっかり抑えてあります。

それでも「作家の収支」がおもしろい本である理由

淡々と事実が書いてあるだけと言いながら、わたしがそれでも「おもしろい」と評したのは単純です。

何をすればいくら収入/支出が発生するのかまとめた書籍が初めて出てきたからです。

冒頭の記述を引用しましょう。

森博嗣, 作家の収支, 幻冬舎, 2015 「まえがき 作家って儲かるの?」の節より引用

あちらこちらから散発的に漏れ聞こえてくる情報はあるものの、肝心の数字がなかったり、あっても伝聞で書かれていたりするものがほとんどで、本当にそうなのかはっきりとしない。それに、作家の収入について網羅的に書かれているものは皆無といえるだろう。

このあと、作家を目指すひとのために情報を提供するのが「仕事」であるとも書かれています。
実際そうだと思いまして、なんだかお金というものに対するタブー感が支配していて、
暗黙の内に誰も職業と収入の話を具体的に公開しようとしない、という現状があると考えています。

これに切り込んで、先に書きました通り「何をすれば、どうなる」というのがまとめてあるというのは
ある意味で作家という職業を体系的に知るための唯一の教材であるといえるでしょう。

特に作家という職業はどうしても「夢を売る」というクリエイター的な部分が強く、
所得の隠匿性が無駄に強いんじゃないかと個人的には考えているのですが、
敢えて他の職業に就かれている方ではなく、氏がまとめたというところが尚の事素晴らしいとおもいました。

文中に、「作家を志したのではなく、収入が欲しかっただけ」という主旨のことが書いてあり、
「夢売り」ではなく、市場主義の側面から作家であった氏であるからこそ書けた内容なのかもしれません。

同人作家の場合

さて、ここから、内容を受けてわたしが思ったことを書き連ねてみましょう。

「作家の収支」は、その「収支を書き綴る」という内容を作家業界には初のコンテンツとしましたが、
同人の世界で活躍される方もこれは例外ではないとおもいます。

「作家の収支」は、仕事における収支のことでしたが、
同人の場合も不可視になっているお金の話があります。
依頼相場です。

特に最近、クラウドソーシングの潮流は避けられない運命にあり、
「よくわからないけど安く仕事を依頼できる」みたいな状況になりつつあります。

これに寄せられるのが「安すぎる」「ダンピングだ」という批判であり、
確かにその通りだとわたしも少しおもいます。
この価格競争から身を守る方法は、クリエイター自身が正しく相場を認識し、低すぎない設定をすることです。
(以前、そんなような話をしました→ 【同人制作の報酬が不透明過ぎるので、相場について答えを出してみた】)

が、その肝心の相場がロクにまとめられていないのも事実ではないでしょうか。
例えば先ほどの批判でいえば、「安すぎる」って知ってるなら適切な価格をシェアしてくれよと思うんですが、いかがでしょう。
公開されない情報は無いも同然ですので、「誰もが知ることができない」という現状があり、相場の設定のしようがない状況になります。

特に同人の世界は狭いので、より多くの人がしっかりまとめてシェアする流れがあれば、
「これから同人の世界でクリエイターを始めるひと」に対しても、いつか有償で何かすることになったときに
買い叩きやダンピングによる共倒れを未然に防ぐことができて、全体の利益にも繋がると思うのですが、どうでしょう。

氏の言葉を借りるならば、「誰も書かないのならば、知りたい人のために語るのは、作家としての「仕事」だ」と思うわけでした。

まとめ

同人界隈は、頒布物については、無料だったり500円or1,000円の頒価で固定される傾向のあるマーケットです。
なので、なにかモノをつくって売るぶんにはこの基準を参考にすれば良いとおもいます(原価回収が目的なので逆算も容易ですし)。

一方、有償依頼については難易度や技巧、納期など様々な要素が絡まるため、簡単に何円、と設定するのも難しいです。
最近は特に有償依頼を受け付ける方も多くなってきましたし、その相場というのはおざなりにしてられない部分であると思います。

その割に全然情報が共有されていないのはおかしいんじゃないかしら、というのを
今回「作家の収支」のように「淡々とお金の話について書いてある本があって、それは作家としての仕事という意識で書かれている」という観点から
なんとなーく偉そうな問題提起をしてみました。

何が言いたいかというと、
同人作家の収支・相場についてまとめた薄い本、たぶん需要ありますよ。(あれ?)

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