ありんこ書房

今日から使える創作ノウハウ。時々エッセイ。ゴシックカルチャー。

今後のインターネットで活躍する全ての人に推薦したい一冊。勁草書房「ネット炎上の研究」

   

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感覚的にわかっていた情報が理屈で解き明かされた感じです。必読。
内容の紹介と簡単な感想を述べてみました。「資料」としての側面が強いので、
これによって新たなアウトプットを得るというより、「身を守る・自律的に考えるツール」として持っておくのが良いと思います。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。

はしがき

一部で話題の「ネット炎上の研究」を読みました。

最近、だいたい毎日起こってるんじゃないかという勢いで何かしら「炎上」が起こっていて、
twitterなりはてブやニュースサイトのコメントなりで執拗に口撃するひとたちを見かけることがあります。

で、個人的にどう考えても異常だよなーと考えていたので
これを理解するための資料ということで、話題だったのもあり手にとって読んでみました。

何が書いてあるか?

この本に書いてある内容は至って単純です。

「ネット炎上とは何か」「ネット炎上はなぜ起こるのか、どういうパターンがあるか」
「ネット炎上の何が問題か」そして「炎上を起こすのはどういう層か」という、
問題の把握と、何に寄って起こって誰が起こしているのかという点の研究がメインです。

後半で「サロン型SNS」という形式で炎上を食い止める手段について提案されていますが。
この本の目玉はおそらく、中盤の結言「炎上参加者はネット利用者の0.5%程度」という部分でしょう。

炎上に参加する人の傾向

この本では、「誰がネット炎上を引き起こすのか」について、
アンケートサイトの調査結果19,992人を元に仮説検定を行い、統計的に「炎上に参加する人々」の集団を推定しています。
「アンケートサイトの調査だとネットに偏る」という点も抑えてあり、NHKの訪問留置調査のデータを使って正規化した上で求めています。

このまとめ、かなり衝撃的な情報が得られます。
アンケートでは様々なパラメータを収集して、それぞれの相関を求めています。
ネット炎上が好きな人のステロタイプとして、従来の書籍では「低学歴、低所得……」のような
社会的ステータスの低い人物が想定されるのに対して、この本で導いた相関は全く逆で、
以下の様な相関が得られています。

  • 男性
  • 所帯持ち、子供がいる
  • 年収が高い
  • ラジオやソーシャルメディアで情報を収集する

というように普通の会社員的なステータスであることがデータ分析から淡々と示されています。

非常にイメージと異なる結果であると同時に、先行している他のネット炎上に関する書籍が一切この事実を拾えなかったことも衝撃です。
いかに主観的な物言いに依存していたのかということも同時に暴いたのではないでしょうか。

炎上に参加する人の数

こちらもアンケートおよびtwitterのつぶやきを統計的に分析し、ネットユーザーの数に対する炎上参加者の比率を推定しています。

帯にも書いてありますがなんと0.5%(数字にして数千人)と推定されています。
ネットユーザーは星の数ほど居ますが、「ごく少数が執拗に取り付いてくる」という感覚的な印象を
同じくデータ分析で淡々と示しています。

「直接攻撃する人」となるともっと減って0.00X%オーダーと推定されています。
にも関わらずこんなに「大量に目にする」という事実があり、直感と反する点が非常に衝撃的です。
この直感は、「騒ぐので沢山いるように見える」とか「ネガティブな情報ほど記憶に残る」という点が影響していると思われます。

なにせ母数が20,000人弱居るうえに偏りを取るための正規化もしてあるので、統計的にも信頼がおけます。

炎上は解決すべき問題である

後半は少し話が大きくなって、近代史と結びつけた「ネット炎上は解決すべき社会問題である」という理論が展開されます。

近代史と結びつけるというのは、「傭兵が増えて略奪が多くなって治安が悪化したから、国が彼らを雇い、身分と待遇を保証し、兵隊として使うことで略奪を無くした」とか
「資本主義経済が発達する中、銀行が乱立して貨幣がめちゃくちゃになったので、国が銀行を管理して貨幣制度を整えた」とか
社会の勉強をしっかりされている方ならご存知の、「問題が起こる→枠組みの中に落として解決する」というアレです。

ネット炎上も、ちょうど「傭兵が増えてきた」「銀行が乱立した」タイミングのように、
SNSが発達してマス層にインターネットと人との繋がりが大幅に浸透した頃と言えまして、
この本はGoogleのNgram Viewerを活用してこれまた淡々とデータ分析し、そのような結論を得ています。
故に、歴史から言ってこれはシステム的に解決していくべき問題であり、「無視する」とかで適当に流していいものではない、と。

全くその通りだと思います。このままでは暴力が支配してしまうので、かつて思い描いていた自由と未来のインターネットは、炎上を恐れた人が発信を控えることによって閉ざされてしまいます。
わたしがこの本を手にとった理由は関心や話題性のほかにも「どうやったら誰もが手軽に発信できるだろう?」ということについて
ヒントを得たかったから、というのもあります。

わたしはブログでこうして書きたいことを書いていますが、
イラスト・音楽・文章そのいずれにせよ「批判されるのが怖いから公開できない」と尻込みされている方を沢山見てきました。
オープンなはずのインターネットが、一部の人達の影響で心理的障壁を作って発信の機会を奪うのは歓迎できませんよね。

探していた解決策そのものずばりは(ただの研究資料なので)見つけられませんが、思考のヒントは大いに得ることができました。
まだまだ過渡期のソーシャルネットワーク時代において、わたしはこの本を今後のネット発信の資料として活用していくのが良いかと思います。

「ネット炎上の研究」を資料として活用すべき理由

ネット炎上をまとめた書籍は過去にも数多くでており、この本の前半でも「先行研究」という形で紹介されています。
しかし、わたしは「ネット炎上の研究」1冊を活用していくのが良いと考えます。
理由は次の通りです。

パターンと従来の対処がまとめられている

最初に炎上にパターンがあること、それぞれにどういう対処があることがまとめられています。

具体的には、反社会的な行動とか、不誠実な行動による炎上という動機付けと、
そのときに無視するとか謝罪するといった、パターンごとにどういう行動をとる(とった)のかを
過去の炎上事件の事例から記述されています。

もちろんこれは序論であり、「対処しても根本的に解決できない」「そもそも執拗に個人を貶める行為は問題」という切り口から
前述の炎上参加者の分析の章に入っていくので、これは単なる「炎上とは?」という説明の一部でしかありません。

しかし、「もしも」のときに一旦冷静になるためにも使える部分ではないかと思います。
事例や傾向から事実を俯瞰できるというのは、尋常でない状況で強みになることでしょう。

定量的・分析的にまとめられている

完全に研究論文の体裁であり、統計学的・数学的にネット炎上というものがなんたるかをまとめられている唯一の書籍です。

「先行研究」たちが感覚的・主観的・印象論的な記述が中心であり、
それらは資料ではなくただのエッセイですから、自身が発信する側に立った時に活用できるものであるとは到底言えません。
その点を、「ネット炎上の研究」は一般的な形に落とし込めているので、自分が発信するコンテンツがアプローチする層などと
照らしあわせた時に非常に有用かと思います。

むすび

で、結局これは「炎上したらどうしよう?」というような対症療法とかハウツーな話ではなく
炎上とは問題であり、解決するためにどうする?を考えるための研究資料であるという位置づけになります。

従いまして、これを受けて本来なら仕組みづくりに奔走するのが正しい姿であり、
例えばこの本であれば「サロン型SNS」による発信者の制限を行うことで攻撃に晒されない仕組みを作ることを提案されていますが、
いわゆる「SNSの次」「twitterの次」に繋がる興味深い観点が生まれるのではないかなーと思いました。

また、「40代の男性、所帯持ち」などの特性から見るに、比較的年齢層が高いところに相関があります。
このことから、今後、若い子たちの道徳教育に「炎上」をしっかり扱うなどの仕組みを整えれば
自由が失われたインターネットをシステム的に解決できる希望はあるように思えました。
実際、巻末付録に「高校生向けのリテラシー教育のひな型」として道徳教育に使える文言がまとめてあります。

わたしは仕組みを考える側ではありませんので、解決に向けたアクションは中々困難です。
しかし、こういう事実を踏まえて自分の身を守るためにどうしていけばいいのか?という観点で
今後の新たなインターネットについて、アンテナを張っていくべきであると思いました。
少なくとも、「炎上に近いシステム」(それこそtwitterのような!)に依存しないように立ち回っていく必要はあるでしょう。

これを読んだからといって炎上を回避できるものではありませんし、即座に改善できる問題でもありません。
しかし、炎上に対する見方や立ち回りを考えるための資料として一冊持っておいて損はありません。

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