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【レビュー】六弦アリス「前衛歌劇団 イデア座 ~人殺しヴィレッジ~ side : idea」を聴きました

   

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相変わらずの表現力と音楽性。本当に凄いです。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。

六弦アリスの「人殺しヴィレッジ」の続編

以前、「人殺しヴィレッジ」という六弦アリスのCDについて感想文を書きました。

【レビュー】六弦アリス「前衛歌劇団 イデア座 〜人殺しヴィレッジ〜」を聴きました

本記事で取り扱う「人殺しヴィレッジ side:idea」は、
以前に書いた作品の続編にあたるものとなります。

こちら、ストーリー性が強いのですが、本作については前作「人殺しヴィレッジ」の少し前、
「アンドロイドが住む村」の誕生のきっかけになった出来事が淡々と表現されています。

しかしこれ、単なる復讐譚と思ったらそうではありませんよ。

各曲の感想とか思ったこととか

全部で7曲収録されています。そしてこの7曲は非常に合理的な構成になっています。
6曲では足りませんし、8曲では多すぎるのです。

音楽性は前作と比較すると結構激しいチューン多め、キャッチー&メロディアス&歌謡ロックな
いつもの六弦アリス節が炸裂した名盤となっております。

Tr.1 赤い雨の夜

物語の事の発端です。

ミドルテンポで淡々と鬱屈した博士の心情を描いています。
これから何かが始まるという予感を感じさせる雨の音も印象的です。

歌詞の

私は悪魔ではない ただ二人、幸せでありたかった
私を悪魔とするならば、彼らは何だ?

これに対して、前作2曲目「或る殉教者の物語」にある

“人の善悪は所詮、人が決めるものだ
それならば人は誰もが皆、神ではないか”

という文言との対比、実に痛快です。
もちろん前作の表題曲「人殺しヴィレッジ」にあるアンサーも含めて。

Tr.2 un deux trois

あやしい三拍子からスタートしアップテンポに繋がる王道ハードロックチューンです。
ギターソロが90年台ジャパメタっぽいんですが後半に今時の速弾きが入ってくるところが好みです。

最初と最後の三拍子は踊り子のステップの表現だと思いますが、
文章を踏まえてみると全く印象が異なってきますね。

Tr.3 美食家倶楽部【Carnival】

跳ねるようなリズムとキッチュなメロディライン、
そして文章の「Chuck-Cha-Cha!」からの掛け声「Yummy!」(たぶん)がナンセンスでインモラルで汚いです(褒め言葉)。
全体のなかでこの曲が一番好きです。

主題はカニバル、つまり人肉食を扱ったものです。
この「シェフ」とその客について具体的には指していませんが、
次々と調理する様が軽快な曲調に載って語られています。

Tr.4 渇きゆく肢体

村の井戸を色目で支配する女性を解体する話です。
アコギを使った切なさの漂う曲調が特徴的です。

皆が求めたのは彼女自身ではなく
まさに彼女のその肢体なのだ

いちいち痛快です。

結局井戸ごと駄目になってしまうわけですが、
博士の罪もまた取り返しのつかないものであることはTr.1で表現されている通りですので、
村人を否定することで村を否定するということなのでしょう。
そしてそれを構成するには7曲で十分なのはここまでよく聴いてるとそろそろ見えてきます。

Tr.5 悪魔のソムリエ

役に立たたないソムリエの役に立たない右腕を使って最高のワインをつくる話です。
Tr.3にも似た乗りやすいミドルテンポに不気味なメロディの対比が印象的です。
Bメロのあたりなんかとくに好みです。

Tr.4と合わせてみると

人は怠惰ないきものだ
そしてあまりに自己中心的だ
人は怠惰ないきものだ
危うくなって初めて気が付く

などのあたりで隠れた主題に気づける感じなので、「あっ」と思いました。
こうなってくるとどんな職業の村人がどういう目にあっているのかなんてただの絵です。
本質とはあまり関係がありません。強いて言うなら「村人」という表現と「井戸を奪い合うという行為」くらいでしょうか。

Tr.6 注文の多い洋服店

本作のキラーチューンと思しき強烈なアッパーチューンです。
ハープシコードとエレキギターの怪しい掛け合いから一気にテンポアップします。頭を振って聴きましょう。
サビは3連符を使った「いかにも六弦アリス!」って感じのメロディです。

文章も色々と凝縮されています。
「煩わしい仕立屋(洋服店の店員)」という急に現実感が出てくるキャラクター、

君はこれから大切な何かを忘れ
主張もないまま、ただ、叫び続ける

という文章から見える「個性」あるいは「創造性」という概念へのA助さんの考え方が垣間見えます。
さて、個性を失った仕立屋のこれからとは。最初からそんなものなかったのかもしれませんが。

Tr.7 顔のない男

Tr.6から引き続いてハードなチューン、この曲調で最後のトラックであるというのも印象的ですね。
ギターソロがないシンプル構成ですが、サビの激しい表拍2ビートと「Step!Step!Step!」のフレーズが耳に残ります。

ここで前作にあったあのフレーズが出てきます。

君にはもう、顔など必要ないだろう
人は個性によって滅ぼされるものだ

主題としては非常に人間的です。博士の激情と暴力をストレートに描いています。
「顔がない」のは明らかにメタファですが、少々異様なのは
他のトラックと比べると確かに「一人だけ顔がない」んですよね。ここだけどーしてもよくわかってません。

強いて言うなら、妻帯者であることを名言されているのは彼一人なので、
「普通に家庭を持っている普通の男が博士の息子の人生を踏みにじった」ってところでしょうか。
なるほど確かに全然面白くないので首を切り落とされても仕方がありませんね。(婉曲的表現)

博士が奪っていったものと、主題の解釈

7つの大罪→人間

これ7つの大罪ですよね。

  • Tr.2=高慢
  • Tr.3=貪食
  • Tr.4=色欲
  • Tr.5=怠惰
  • Tr.6=嫉妬
  • Tr.7=貪欲

Tr.7は若干消去法もあるのですが「君に似てとても欲深い女だった」という一文から推定できます。
そして博士自身(Tr.1)は憤怒ですよね。
一見可哀想な息子のために村人に復讐して回る話になりますが、これもまた博士のエゴでしかありません。
人間は本来もっと文化的な解決ができる生き物なのですが、これを暴力に依存して解決してしまっています。

たぶん聴き手が「そうだそうだやっちまえ」と博士に同情するところまで計算されているのではないでしょうか。
博士の感情に盲目的に同調し、飲み込まれてるところまで含めた群像劇の演出、聴き手も舞台装置、みたいな。
憤怒に対応する美徳は「正義」ですから。

曲が7曲あれば十分である理由のひとつはここでしょう。
歌詞カードの冒頭で村人は40人くらいいることが述べられていますが、人間を語る上では、なるほどこれだけで十分です。
緻密に計算されているギミックだなーと思いました。深読みだったとしてもなんでもいいです。

身体のパーツ→個性

で、各曲の文章が書いてあるページの左上にはこんな風に「失った部分」が表現されています。
killingvillage2-2
博士が奪っていったものは肢体でも命でもなくて「個性」でしょう。
踊りや肢体、葡萄酒や仕立ての技術といったものを成し遂げる手段を奪っていったといえそうだからです。
博士もまた、争いを好まない優しい心を失いました。

美食家倶楽部【Carnival】だけどうにも説明が付きませんが一旦この場では保留します。
顔のない男に限っては「帳尻を合わせた」といったほうが適切かもしれませんが。
うん?びみょーに辻褄が合わない気がします。本質は最初に上げたほうなのは間違いないので、引き続き考えてみます。

そして辿り着いた「人は個性によって滅ぼされる」という結論。
この結論は皮肉にも前作「人殺しヴィレッジ」のどうしようもない顛末に収束していきます。

その辺の物語音楽と違うのは人の根源的なところを徹底的に物語や登場人物の外郭で覆っているだけというところです。
どんなバッドエンドやナンセンスなオチになったとしても「そういうもんだしどうしようもないよね」と思わざるを得ません。

壮大なスペクタクルも、緩急きかせた起承転結もありません。「登場人物を配置すると、勝手にありのままに生きて死ぬ」だけに見えます。
更にキャッチーなメタルで包んでるのでもう本来の味がなんだかわからなくされてますね。最高です。

まとめ

というわけで、数十回聴き倒してやっと書けそうになったので
感受性を爆発させて思うがままに感想を書きました。毎度ごちそうさまです。

明らかに作曲・文章のA助さんが「わかるひとにしかわからないハイコンテクスト」を描いて提起しているので、
いちリスナーとしてはそれに応えないとと思って色々考えてみましたが、
初期の頃から全く軸がブレない姿勢が本当に素晴らしいです。
いや、正確には「イデア座」が出てきたあたりからメタ的というか「ゴスを俯瞰する」立ち位置が出てきたので
「おや」と思って聴いているところもあるのですが。実は「原宿ロリヰタキネマ」のあたりで一回聴くのやめましたし

たとえばエログロでも、子供が虫を殺すのと同じレベルのしょうもない残酷さで表現とみなすのも少なくないのですが
六弦アリスにはそういうのを一切感じさせない鋭さがあり、メジャーデビューしても全く流されないので毎作品本当に楽しみです。

さあ、同じようにこじらせてるそこのアナタもCD買って聴きましょう。

【とらのあなWebSite】前衛歌劇団 イデア座 ~人殺しヴィレッジ~ side:idea

【とらのあなWebSite】前衛歌劇団 イデア座 ~人殺しヴィレッジ~

六弦アリス Official Web

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