ゴスロリ向け日傘ブランドLumiebreから学ぶ、創作作品のアプローチの話

ニッチ戦略が同人の創作においても効果を持つんじゃないかなーという考察です。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。
目次
日傘ブランド「Lumiebre」
ロリィタさんとかゴシックなひとたちは日焼けをすると色々と台無しになります。
かといってアームカバーみたいな現代的で機能的な装備を着けるのもナンセンスなので、
多くの場合日傘をさして歩きます。
となると、当然服装にマッチした傘が必要になりまして、
ロリィタファッションブランド各社もそんな感じの素敵な傘をラインナップしているのですが、
Lumiebre(ルミエーブル)というブランドは傘だけ取り扱っているという特殊なブランドです
(最近は色々扱ってますが)。
ゴシック・ゴスロリ調ブランド通販 | Lumiebre(ルミエーブル)
運営会社は?
で、ファッションデザイナーが企画したブランドなんだろう、と考えましたが
実は全く違います。
「阿江ハンカチーフ」という伝統的な会社
公式サイトの右下に会社の名前が書いてあります。
「AE HANDKERCHIEF」とあります。
これをググると、こんなサイトがでてきます。
!?
なんだか職人さんが織物技術を駆使してハンカチーフや生地を制作している会社に見えます。
っていうか実際そうです。
明治創業の非常に歴史の長い会社で、「播州織(ばんじゅうおり)」という伝統技能を用いて
様々な布製品を制作・販売しているという一見お硬い企業です。
が、さきほどのLumiebreを企画しているのも紛れも無く阿江ハンカチーフさんであり、
想像もつかないような非常に斬新なブランド展開が興味深いです。
なぜ、このような展開を始めたのでしょう?
ブランド「Lumiebre」の興り
こちらのサイトに阿江ハンカチーフさんへのインタビュー記事がありました。
創り手たちのStory #018 阿江ハンカチーフ株式会社 | Rin crossing
Lumiebreの興りについて、以下のように回答されています。
「このままでは産地も自社も危ないという危機感です。私が子どもの頃、町は活気に溢れ、弊社を含む何十もの工場で全国から集められた女工さんたちがたくさん働いていました。しかし次第に大型織布工場は閉鎖され、小規模な家内工業へと移り変わります。それでも最初は1700軒ほどあったのですが、1990年頃から中国との競争が激化し、現在は200軒ほどに減ってしまいました」
:
(中略)
:
「播州織のドビーやジャカード、また産地の特許技術のクラッシュ加工(緯糸の配列を柔らかな曲線に移動させる技術)が生きる商材として、ポーチやパジャマ、トランクス、傘などを試作したところ、傘がもっとも反応が良かったのです。“ゴスロリ”を狙ったのは、市場リサーチの結果。参入企業が少なく、ファッション性が高く個性が求められるわりに品質に難があったため、後発でも勝てると感じました」
やはり、思った通りでした。
伝統技能を使った製品というのは、世界的に見ても品質が最強なんですが、
普通に作ってても一般消費者向けの製品では途上国による安価な大量生産に勝ち目がありません。
そこで、阿江ハンカチーフさんは、高品質が求められる+競合の品質が悪い、という点に着目して
ゴシック・ロリィタ向け傘ブランドを立ち上げたというわけですね。
実際、ロリィタさんは必要な服飾にはいくらでも出す上にクオリティは一切妥協しない習性があるので、
ゴシッカーの端くれなわたしのこだわりとも合致しています。
傘は特にものが少なく、種類が限られており、たまに見つけても中国産の変な物体だったりしていた現状に
見事に突き刺さったというわけです。ユーザーとしても、このように服の価値に見合った傘が登場したのは本当にありがたいことです。
そうそう、言うまでもありませんが、阿江ハンカチーフさんレベルの技術力があるメーカーはロリィタ系ブランド全体で見てもまず無いので
品質に焦点を当てるとその辺のファッションブランドが逃げ出すレベルだとおもいますよ。
創作に置き換えてみる
さて、突然ですが創作に置き換えてみましょう。
作品が注目されるための手段として、これの応用ができないか、というハナシです。
ニッチ戦略のはなし
本来、ものづくりと創作は、ひとびとの生活に必要なもの⇔娯楽や教養 という区分になるので単純比較が難しいのですが
ロリィタ服・ゴシック服は生き様なので、表現を糧にして生きるという意味では似たものがあります。
というわけで置き換えが利くとみなします。
阿江ハンカチーフさんがとった戦略は経営学でいうニッチ戦略というものだとおもいます。
大きな会社が莫大なリソースで殴ってこないところを狙って商品を突き刺していくという戦い方です。
普通に布製品を作ってもファストファッションのメーカーなどがひしめいているので、そういうことだとおもいます。
また、セオリーに則ると、「拡大しすぎないことで参入を防ぎ、競争自体発生させない」という点もばっちり押さえていますね。
詳しくはコトラーを読んで下さい。
ニッチな創作?
いやまてまて、創作は創りたいもんを創るべきじゃないですか。
作品自体を戦略的に作ったらそれは単なる商業ではありませんか。
その通りです。自分が表現したい本質(=目的)は変えてはいけないとおもいます。
ただし、手段についてはいくらでもユニークな方法を取ることができます。
アプローチについて誰もやってない方策を取る、という案はどうでしょう。
わかりやすい例はBABYMETALでしょうか。
オタクカルチャーだと声優やアイドル属性とメタルはそれぞれ好まれる傾向にあるので、
掛けあわせちゃったら隙間に刺さったというやつです。
それでも、日本の音楽特有のキャッチーさや、アイドル音楽の「かわいい」は保存されています。
同人即売会も年々参加者が増えてきており、
ここまでクリエイターだらけの状態で普通に作っても埋もれてモチベーション落ちてやめたくなりますから、
同人の変なものを歓迎する傾向を利用して、「ないもの」を探し当てて投入したいところです。
例えば「ゴシックロック」という、バンドサウンドにチェンバロやストリングスを入れた
キャッチーなジャンルが同人音楽にはありますが、この辺りの空いている椅子、なんだとおもいます?
ゴシックな音楽性や頽廃的な歌詞が好みのリスナーさんを惹きつけられるもので、
アプローチとしてまだ存在していないものはなんでしょうか。
こんな風に色々考えると、「あ、これウケるかも!」みたいなのが見えてくるんじゃないでしょうか。
アプローチは実際手探りなので、効果が出るのかはわかりません。しかし、粘り強く実験する価値はあるとおもいます。
SNSで盛んに宣伝を見かける以上、多くのひとに見られたい聴かれたいという欲望があるんでしょうし、
普遍的なやり方で思った通りにならないのであれば、「まずやってみる」のがいいのではないでしょうか。
むすび
なんだか偉そうですが、「見たこと無いパターンは目立つ」というのは事実です。
阿江ハンカチーフさんの場合、「高品質・国産ブランドのゴスロリ服」は沢山ありましたが傘が全然無かったので
世のロリィタさん、ゴスロリさんのハートを射止めるに至ったわけです。
「唯一無二のコンテンツをつくる」というのはわかりきった話なんですが、
それが「聴き手/読み手から見た時にどう見えるか」というのを意識すると結構難しい問題になりますね。
「俺達の音楽だ!個性だ!」と主張して結局普通のロックにしかなってないバンドは無数にありますが、
そんな風にならないように、わたしも色々考えないといけないなーとおもいます。