「弾いてみた」系の動画をYoutubeではなくニコニコに上げるべき重要な理由
2016/09/26

売り込みの話じゃなくて利用規約のお話です。クリエイターなら守りましょう。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。
もう個人の発信行為としては非常に主流になりました「カバー動画」、いわゆる「演奏してみた」とか「弾いてみた」と呼ばれるやつですね。
こいつを作る際、皆様はいったいどうしてますか?多くの場合、CDのオケに自分の演奏をかぶせるというスタイルで載せるのではないかと思います。
しかし、この形態を取ってしまうと、ガイドライン上Youtubeではルール違反です。ニコニコに上げるならばセーフです。
なぜそうなのか色々書いてみましたので、おひとつ参照してくださいますと幸いです。
目次
「演奏してみた」動画の原則
はい、まず著作権のひじょーにかいつまんだ話から。法律の話なので頭が痛いかもしれませんがモノつくるならつべこべ言わず読んで下さい。
まず一言で言うと原則として著作権侵害です。理由は以下の通り。
演奏権・上映権を侵害する
「演奏権・上映権」というのは、その名の通り「著作物を著作者の許可なく勝手に演奏しちゃだめ」と言える権利です。映像作品だと上映ですね。
歌ってみたも演奏ですね。というわけでまずこれに違反します。
もうひとつあります。
公衆送信権を侵害する
「著作者の許可なしに無断で放送・送信しないでください」と言える権利です。つまりネットにアップロードして誰でも聴ける状態にするのがアウトというやつです。
バックのオケをCDから取ってきたそのまま乗せているのであれば言うまでもなくNGですね。というわけでアウトです。
というわけで権利を2つばかり侵害しているので、普通に演奏してみた動画を撮ってアップするとアウトです。
じゃあ世の中の演奏してみた人たちはみんな権利侵害者なのか?というとそうではありません。権利者と契約することで侵害に当たらないようにしているものがあります。
複数ありますが、本記事で紹介するYoutubeとニコニコ動画もそれに該当しています。
著作権包括ライセンスの話
「著作者と契約」の話について、前提を理解するためにもう少しだけ掘り下げてみましょう。
JASRACとYoutubeとニコニコとユーザーとの関係性
まず皆様御存知だと思いますが前提を確認しますと、基本的に「演奏してみた」に上げられるようなメジャーな楽曲というのはJASRAC等の権利管理団体がその著作権を管理しています。
大手のレーベルなんかは著作者(作曲者)が大量にいるわけで、とてもこの事務作業をレーベルだけのタスクとして消化しきれるものではありません(それだけで仕事終わっちゃいます)。なので、権利管理に特化した団体に委託して代わりにやってもらってるというわけですね。
つまり、大手レーベルなどの曲を著作者に断って使いたい!となったときはJASRACに使用料を払って許可を貰えば使えるというわけです。ユーザーからするとJASRACが窓口になってくれるので個別に著作者にコンタクトを取らなくても良くなり、合理的・効率的な仕組みになっています。
そして、Youtubeとニコニコ動画は特定の条件付きでJASRACに許可をもらうところも代わりにやってくれています。従いましてわれわれユーザーは特に何も意識しなくても、JASRAC対象楽曲をある程度自由に使うことができる、というわけですね。
ちなみにJASRACのほかにJRCやイーライセンスといった著作権管理団体が存在しており、これらとも契約を結んでいますが、今回の話とは論点がズレるので省略します。
「団体と契約している」という話だけ抑えて下さい。
さて、ではなぜ「演奏してみた」のような動画はYoutubeではなくニコニコに上げるべきなのか?以下で考えてみましょう。
JASRACとの包括契約
答えは簡単で、ニコニコは著作隣接権に関する記述が明記されているからです。
ストリーミングサイトの包括契約の条件
JASRACのサイトに以下のような条件があり、動画共有サイトはこれを守る条件で契約を結んでいます。
で、まぁこの条件自体はYoutubeやニコニコが取り締まる内容なので一旦良しとして、問題は、このままだと著作権的にクリアでも著作隣接権的にNGであることです。
JASRACの以下のページ、下部にある「利用上のご注意」を御覧ください。
ご利用になる音源について
市販のCDなど第三者製作の音源を利用される場合は、JASRACが管理する作詞者、作曲者の著作権とは別に、ご利用になる楽曲(音源)毎にレコード製作者、実演家等の関係権利者の著作隣接権について、許諾を得る必要がありますので、予めレコード製作者に直接お問合わせください。
参考:日本レコード協会音源利用許諾窓口一覧
利用できる音源
○ 自身で演奏したもの
○ 自身の演奏に合わせて歌唱したもの
○ 自身で制作したMIDI
○ サイト運営事業者がレコード会社等から許可を得ている音源 等
レコード製作者等の許諾を得る必要のある音源
× レコード会社等の許可を得ていないCD音源
× カラオケ事業者の許可を得ていない伴奏音源
× アーティストのプロモーションビデオ、TV番組、映画 等
はい、演奏してみた動画や歌ってみた動画にある「バックにCDのオケを流して自分の演奏をかぶせる行為」なんですが、実はこの注意における「レコード会社等の許可を得ていないCD音源」に該当します。ということは、勝手に使っちゃ駄目で、「予めレコード製作者に直接お問い合わせ」しないといけない、ということになります。
この「許可を得ていないCD音源」がどういう権利で守られるかというと「著作隣接権」という権利になります。
これは、曲などを作ると発生するのが「著作権」であるのに対して、作曲者の所属するバンドとかレコード会社など、その作品に関連する作業に関わった者に発生する権利になります。
おもしろいことにJASRACにとってもわかりやすい説明ページがあります。→ ジャスラの音楽著作権レポート(JASRAC PARK)
で、包括契約は著作権を守るものであるらしく著作隣接権は責任とれないから個別に許可取れよ、と。そういうことのようです。
ニコニコは著作隣接権に関する文章が明記されているから安心
さて、じゃあJASRAC包括契約で守られる範囲(=耳コピした自作音源とか)は良しだけど、CD音源のオケを使った演奏動画は駄目、という点のクリアですが、ニコニコなら大丈夫です。
以下のページを穴が空くほど御覧ください。
音楽著作物及び音楽原盤の利用に関するガイドライン‐niconico
最初の「1.ニコニコ動画(動画投稿サービス)におけるJASRAC管理楽曲、イーライセンス管理楽曲、JRC管理楽曲の利用について」には以下の記述があります。
JASRAC管理楽曲・イーライセンス管理楽曲・JRC管理楽曲の利用が許諾されているのは、 楽曲の著作権に基づく利用のみです。例えば、以下のような内容を含んだ動画を「ニコニコ動画」にアップロードして視聴することが許諾されています。
例)JASRAC管理楽曲・イーライセンス管理楽曲・JRC管理楽曲のいずれかを、自身で演奏したもの
例)JASRAC管理楽曲・イーライセンス管理楽曲・JRC管理楽曲のいずれかを、自身で演奏したものに併せて歌っているもの
例)JASRAC管理楽曲・イーライセンス管理楽曲・JRC管理楽曲のいずれかを、自身の操作によってDTMソフトウェア・MIDIソフトウェア・ボーカロイドソフトウェアなどで演奏・出力したもの上記例のような管理楽曲の利用は可能ですが、CDの音源をそのまま利用することについては、「3.音楽原盤利用について」で定められる範囲で可能です。これ以外のCDに含まれる音源をBGMなどに利用した動画を「ニコニコ動画」にアップロードすることは許諾されていません。
というわけで、そのまんまCD音源を使うのはやっぱり駄目、と書いてあります。一方で「CDの音源をそのまま利用することについては、「3.音楽原盤利用について」で定められる範囲で可能」と書いてありますので、そっちを見てみましょう。
「3.音楽原盤利用について」には以下の記述があります。
3-a. エイベックス・マーケティング株式会社、ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントジャパン合同会社、株式会社 Pinc、ユーマ株式会社、株式会社ワーナーミュージック・ジャパンの音楽原盤の利用について
利用可能なサービス
niconicoにおいて、音楽原盤が利用可能なサービス(以下、「許諾サービス」といいます。)は、次の通りです。
ニコニコ動画(動画投稿サービス)
ユーザー生放送
許諾サービス以外のサービスにおいて音楽原盤を利用することはできません。利用方法
利用者は、別途定める音楽原盤の許諾者(以下、「許諾者」といいます。)が許諾する音楽原盤(以下、「許諾原盤」といいます)を利用して、許諾サービスで利用することができます。許諾原盤は、「許諾原盤検索システム」で確認することができます。
動画投稿や生放送に原盤を利用できる旨が明記されています。というわけで、ニコニコの場合「許諾者」が許可する「許諾原盤」であれば、CD音源に載っけて演奏した動画をアップして良いと言えます。
従いまして、「ニコニコでは、ガイドラインで許可されている楽曲に限り、演奏してみた動画をアップロードする際、CD音源に自分の演奏をかぶせたものでOK」である、という結論が得られます。
もちろん禁止事項やその他条件について詳細に書いてありますので、もし演奏動画や歌ってみた動画を投稿する機会がありましたら、上記のガイドラインをよくご覧になるのが良いと思います。
あれ、Youtubeの原盤利用は?
で、気になるのはYoutubeの原盤利用に関するガイドラインの有無なんですが、探しても探しても見当たりません。
で、プレスリリースを検索してもやっぱり見つからないので、消去法といったらあれですが明記されてないから多分違反なのでやめとけと言っておきます。
JASRACとの包括契約に関するところは、JASRACのページを見ると「Youtube」の記述があるので、これは確かです。
利用許諾契約を締結しているUGCサービスリストの公表について
なんですがやっぱり著作隣接権の話がどこにも書いてないということで、そうなると先程JASRACのページから引用しました「レコード会社等の許可を得ていないCD音源」に該当するところをクリアできてないと判断するのが賢明です。実際Youtubeの自動プログラムでペナルティ食らってるの見かけますし。
まとめ
長々と書きましたが結局以下の通りです。
- 原則、演奏してみた歌ってみたは著作権違反
- しかし、YoutubeとニコニコはJASRACやイーライセンスなどの管理団体と契約しているので、その範囲だとOK
- ところが、CD音源をまるまる上げてそれに演奏を載っけるのは著作隣接権的にNG
- ニコニコは、それについてもガイドラインがあるので、それを守ればOK。Youtubeは明記がないのでやめとこう
演奏してみた・歌ってみた動画はスキルの発信に有効であり、これをきっかけにいろんな可能性を生み出すことができるクリエイティブな活動です。
だからこそ、守るべきルールはしっかり守って活動するのがやっぱりかっこいいんじゃないかなーと思った次第です。複雑で難しいですが最低限は覚えておきましょう。
ただ、割とデリケートな話を記事にしましたので、もし誤りがありましたら指摘下さい。
あ、言うまでもありませんがJASRACやイーライセンス管理外の楽曲を勝手に演奏するのはYoutubeでもニコニコでも著作権侵害ですので、個別に許可取らないと駄目です。気をつけましょうね。
【参考資料】
ちらと述べた著作権の話ですが、「18歳の著作権入門」という本が非常に平易に説明されており、章末にチェックテストがあるので理解度確認もできてとてもわかりやすいです。おすすめです。