iZotope NeutronのためにMPB2を買おうとする貴方が検討すべき5つのこと
2016/10/27

「Music Production Bundle 2のほうが安いじゃん」という考えを叩き斬って再検討していただくための記事です。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。
iZotope Neutronはミックスの設定を提案してくれる便利プラグインということで、
初心者でも「取り掛かりの設定が見える」ので、これを基点にして資料から得た知識を適用して「破綻しないミックス」にたどり着くのが非常に容易になりました。
あるのとないのとでは非常に差が出るレベルなので、初心者もエンジニアも是非持っておきたいプラグインといえるでしょう。
さて、どうせ手に入れるなら安いほうが良いと考えるのが消費者心理でして、色々検討されているかと思いますが、単品の「実質価格」という観点で言えばこちらの「Music Production Bundle 2」を選ぶと、OzoneやNectarなどのiZotopeの便利プラグインも付いてきます。
Mixing and Mastering Software | Music Production Bundle 2
で、単品でバラで買うより断然安く手に入るので、今までiZotope製品がノーマークだった場合、「強力なマスタリングスイートのOzoneも手に入るし……」と
「単品で買うよりもMusic Production Bundleを手に入れておいたほうが今後楽になるかも?」という考えを抱くかもしれません。
しかし、貴方の目的はいまいちパッとしないご自分のミックスとマスタリングをすっきりさせることですよね?
その視点に立って考えた場合、「Music Production Bundle 2を買う」という選択肢は必ずしも適切ではない可能性があります。
というわけで、「Music Production Bundle 2を買う程度の予算がある」場合の優先度付けについて、本記事で一緒に検討してみましょう。
目次
Music Production Bundle 2はミックスという観点なら不要!
はい、もう見出しで速攻断言してしまいましたが、わたしは要らないと思います。
で、買うとしたら「Neutronのスタンダード版を単品で買う」のが最適だと思います(Nectar Elementsからのアップグレードが最安?)。
Music Prodcution Bundle 2には以下のソフトウェアがバンドルされています。
- Ozone 7 Advanced
- Nectar 2
- Trash 2
- VocalSynth
- RX Plug-in Pack
- Neutron Advanced
- Insight
で、こんだけあっても、「ミックスやマスタリングを良くしたい」という目的を持つ初心者の貴方の場合、Neutron単品で良いと思います。
何故そう考えたか?以下で長々と述べていきましょう。
Nectar 2はとりあえずNeutronで代用が効く
Nectar 2はボーカル特化のミキシングスイートです。EQ、コンプなどの基本的なプラグインに加えてディエッサーとピッチ補正というボーカル特有のものがチャンネルストリップに含まれるのが特徴です。
非常に強力なプラグインでして、プリセットも大量に収録されているので「ボーカル向けのミキシングはこいつ一人で大丈夫じゃないかな」といえるレベル……なんですが、
プリセットが多くて高機能以外は自分で設定は作り込まないといけないわけでして、NeutornのTrack Assistant機能のように「設定を提案してくれる」なんてことは当然できません。
そして、Neutronはボーカルトラックに挿してTrack Assistantを使うとしっかりボーカル向けの設定が提案されます。
ということは、初心者のあなたはNectarのプリセットから作り込むよりもNeutronのTrack Assistant基点でミックスを開始したほうがよく仕上がる……と考えられませんか?
と考えると、わたしはNectar 2はとりあえず無くても大丈夫かなーと思ったりします。
用意すべきはNeutronに付属していないピッチ補正とディエッサーになりますが、ピッチ補正だったらSONARはMelodyne Essential、CuabseはVariAudioがついてたりしますし、
フリープラグインならMeldaProductionのMAutoPitchみたいな強力なやつが存在します。ディエッサーはFish FilletsのSpitFishで十分でしょう。
VocalSynthとTrashは明らかにいらない
VocalSynthとTrashはそれぞれボーカル向けエフェクターとディストーションエフェクターです。ミックス関係なくて音作り用です。
VocalSynthは以下のティザー動画にありますようにボコーダーその他ボーカル加工用のプラグインで、R&Bとかエレクトロには重宝するプラグインです。
Trashは強烈な歪み系の加工を得意とするプラグインで、ハードコア系のキックとかシンセの音作りを行うのに最適です。
当初の「Neutron欲しい」の目的はミックスとマスタリングの改善だったと思うのですが、ご覧の通り用途としては全く関係ないものになります。
で、これを「要る」と思えるパターンというのは、前者で考えたような「ボーカルの音を加工して遊びたかったが丁度いいプラグインを持ってなかった」とか「歪み系エフェクトは近いうちに使う用事があった」とかあなたの作りたい音楽にマッチしていた場合であって、結構ジャンルを選ぶプラグインなので人によって必要性は分かれるはずです。
わたし個人としてはTrashは激推しプラグインなんですが(関連記事: 変な音が出るので普通のDTMerに決しておすすめしないプラグインとか音源5選)、多くの人にとっては優先度低いのでは?と思ったりします。
貴方の音楽にとってはいかがでしょう?ミックス改善のついでに本当に必要なのか検討していただけたらと思います。
Insightも明らかにいらない
Insight、これメータリングスイートという珍しい種類のプラグインです。
「メータリングスイートって何?」って話ですが、簡単に申し上げますと周波数帯域その他音楽の情報をいろんな方法で可視化するプラグインです。
上記のティザー動画ですと15秒くらいのこのキャプチャ↓がわかりやすいでしょう。
基本のスペクトラムアナライザーはもちろん、ステレオ表示やレベル、ラウドネスなど全て可視化できますので、主にマスタリングなどの作業で追い込みの際に威力を発揮します。
ちなみにわたしはミックスやマスタリングは全く本領ではないので、情報量が多すぎて使いこなせてません(駄目)。
さて、スキルレベルを考えた時、「ミックスやマスタリングを改善したい!楽したい!」って考える(ちょうどわたしのような)層であれば無用の長物になる可能性が高いです。
これは先に上げましたVocalSynthやTrashと一緒で、「目的に合ってないせいで使う用事が出てこないから」です。
というわけで、本当にバンドルされてたとしてそれを重宝する機会が豊富に出てくるか検討してみてください。「いつか使う」は99%使いません。
それでも気になる方はMeldaProductionのMMultiAnalyzerというスーパーメータリングプラグインを紹介しますので、こっちで我慢しましょう。$59です。
(参考記事: MeldaProduction「MMultiAnalyzer」で視覚的にEQコンプ設定を決める方法 )
RX Plugin-Packは凄いけど出番がないはず
RX Plugin-Pack、これは信号のノイズ処理に特化したプラグインです。
もともと「RX 5」という10万円くらいする最強のノイズ処理プラグインがあって、それの機能制限版になります。用途としては、
- 入力が大きすぎてクリッピングしてる波形を修正する
- レコーディングしたら「サー」というノイズが混入していたギターの波形からノイズを除去する
- インタビューのときに入った周囲の喧騒などの不要な音を削り取る
などの機能があります。以下の動画はシチュエーションとしておかしいですが効果を理解する動画として非常にわかりやすいです。
これはかなり魅力的なんですが、まず打ち込みだと原理的にノイズが入らないので要らないことに加え、ミックスの改善を検討する段階ならノイズ除去を本気で検討するのは後回しで良いので一旦不要かなーと思います。
もちろんボーカルやギターに対して威力を発揮するので、必要ならあとになってから単品で買うという選択肢もあります。
iZotope RX Plugin Pack | AudioDeluxe
ポイントは「VocalSynth、Trash、Nectar、InsightもくっついてくるけどRX Plugin-Packのためにバンドルにする必要があるか」という観点です。こちらも検討してみましょう。
Ozoneは魅力的だけど代替案がある
最後にOzone。非常に強力なマスタリングスイートです。プリセットも大量にあります。これ正直あったほうがいいです。
で、Ozone単品とNeutron単品でそれぞれ買った時と、Music Production Bundle 2をセール狙って買った時だと確か大して変わらないかバンドルのほうが安いという怪現象が発生します。
特にMusic Production Bundle 2についてくるのはアナログ系モデリングが付属したAdvanced版なので、明らかにバンドルのほうが安くなります。
なので、これはちょっとむずかしいライン……なのですが、Music Production Bundle 2とNeutronはなんだかんだ言って差額が結構あるので、予算のやりくりが大変な学生さんだと慎重にならざるを得ません。
そんなとき検討すべきは「Ozoneの代替案があるか」という話になるのですが、結論を申し上げますとあります。しかもタダで。
今流行の人工知能(AI)をつかった自動マスタリングサービス「LANDR」を活用しましょう。
LANDR インスタント・オンライン・オーディオ・マスタリング・ソフトウェア
正確には「mp3 192kbpsのときはタダ」で、wavファイルに起こしたいときは1曲$9.99です。
LANDR インスタント・オンライン・オーディオ・マスタリング・ソフトウェア
ニコニコやSoundCloudに上げるくらいなら無料版でいけますし、OzoneやMusic Production Bundle 2に割ける予算があるなら都度$9.99で作ってもらうという選択を取っても高くはつかないはずです。
もし1ヶ月あたりに作る曲の数がそんなに多くないならば、検討の余地があるでしょう。
またコンピ主体ならマスタリング担当が別にいるはずですので、あんまり他人に依存するのはよくありませんが「必ずしもOzoneがなきゃだめ」というシチュエーションでも無いかと思います。
浮いた予算はモニター環境に使おう
さて、いかがでしょう。「あ、Neutron単品でいいじゃん、自分の場合」と思った方は、まるまる浮いた予算をどうしよっかなーという嬉しい検討ができるようになります。
ここでも「ミックスとマスタリングを改善する」という目的にあたって最良の結果を得られるような使い方をひとつ指南しておきましょう。
初心者というかプラグインコレクター化する人にありがちなのがセールに取り憑かれてハードウェアの更新を怠るという現象。いくらNeutronやOzoneやLANDRが素晴らしい2mixやマスターを仕上げてくれてもあなたの環境がビミョーだったら違いがさっぱりわからんので無意味です。
というわけでおすすめしたいのが「浮いた予算でモニタースピーカーかヘッドホンを整えてみる」という選択。とはいえ、Music Production Bundle 2自体が(セールをピンポイントに狙って数十%オフで買うと)そんなに高くないので、NeutronのStandard版を単品で買って、その差額で買えそうなものでOKです。別に高級なモニターを揃えろと言っているわけではありません。
わたしが最初使ってたのはFOXTEXのPM0.4でした(1.5万円)。この価格帯では異様に繊細に鳴らしますのでおすすめです。それこそ「テキトーな環境」から刷新したとき、最初にテストで音楽を流したら鳥肌が立ったのを覚えています。
FOSTEX ( フォステクス ) PM0.4n(MB) | サウンドハウス
あと物欲を刺激するなら今使っているEVE AUDIO SC203がサイズ、音質ともに素晴らしいので是非おすすめしたいんですが、7万円近くして、浮いた予算で買うという主旨から外れるので別に気にしなくて良いです。一応関連記事は貼っておきます。
→ 超小型・高音質モニタースピーカー「EVE AUDIO SC203」レビュー
モニターヘッドホンは1万円くらいでプロも使ってるいいやつが手に入りますので、好きなのを選ぶと良いでしょう。個人的にはYAMAHAとオーディオテクニカ、AKGあたりが良いんですがググって好みのやつを探せば良いと思います。
個人的イチオシはこちら。K240Sはわたしが一番最初に買ったモニターヘッドホンですが今7,000円ちょっとで手に入るんですね。凄く良いヘッドホンなのでおすすめです。
AKG ( アーカーゲー ) K240 Studio | サウンドハウス
という具合に、Music Production Bundle 2はやめて、浮いたお金で出力する環境を良くする + Neutron(Standard版)で楽しつつ整えるソフトウェア環境を手に入れることで、初心者のあなたでも「変じゃないミックスを簡単に仕上げる」環境はバッチリ手に入るんじゃないかと思いますが、いかがでしょう。
まとめ
長々と書きましたが、結局言いたいことは「ミックスを楽して改善したいならNeutron単品とLANDRに一旦落ち着いて、余ったお金をモニター環境に投資するのが合理的である」という話です。
無駄にバンドルを選んでしまうと結局Neutronを普通より高く買ったような状態になりますので、こういう価値判断はしておいたほうが良いです。
もちろんわたし個人の考えなので、各節で「検討してみてください」と述べましたように、「今のあなたの音楽にとって必要である」ということがご自分で結論できたならばバンドルを買う価値はあるかと思います。
ここで大事なのは安いことが買う理由になってしまうというミスを防止するすることです。
曲を作るのはプラグインではなくあなたです。目的に応じた手段を適切に選択して賢いDTMライフを送りましょう(自戒を込めて)。