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DTMプラグイン「エンハンサー/エキサイター」が行う処理とは

   

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エンハンサーというプラグインについて、どういう意味なのか理屈を説明してみます。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。

エンハンサーってなんだ?

最近、Wavesから変なプラグインが出てきました。「エンハンサー」とかいう種類のプラグインらしいです。

Waves – Infected Mushroom Pusher | Media Integration, Inc.

代理店のMedia Integrationの説明文いわく、

エレクトロニックミュージック・デュオInfected Mushroom全面協力のもと開発された、先進のマルチバンド・エンハンサー/クリッパー/リミッター

Pusherのパラメータ

Low: 低域のエンハンスを、指定されたノート/周波数を基点に適用します。キックやベースのキーに合わせて、ミックスに最適なドライブ感を得ることができます。
Body, High: 中域、高域のエンハンスを調整します。
Magic: 全体域のダイナミクスをブーストするパラメーターです。ドラムグループやミックス全体への使用に最適です。
Focus, Dyn Punch: 中高域のダイナミクスの追加プロセス量を調整、Dyn Punchはアタック、サウンドの輪郭を際立たせます。
Stereo Image: 高域のステレオイメージを広げ、開放感のあるサウンドを生み出します。
Push: クリッピング/リミッティングのモードを選択し、ミックスの輪郭を保ったまま音圧を最大限まで上げる、マスターに必須の処理を施すことができます。

はい、よくわかりません。

いや、これプラグインの分類としては「マルチバンドエンハンサー」というものに該当しまして、別にこのプラグインにかぎらず「エンハンサー」と呼ばれる種類のプラグインは色んなメーカーから数多く出ているのですが、どうにも直感的に効果が判断できません。

たとえばEQであれば不要な周波数帯域を削る、コンプであれば音量の平均化、といった具合に明確に一言で表せる役割なり効果があるわけですが、エンハンサーはどうも「サウンドにパンチを効かせる」とか体育会系な説明が多いように感じられます。
でもなんだかミックスでは結構用いられている印象があって、これまた初心者DTMer置いてけぼり系な感じがします。よろしくありません。

そこで、本記事では備忘録も兼ねて、「エンハンサー」というプラグインが定量的にどういうことをしているのか調べて共有してみることにしました。

エンハンサーがやっていること

結論から申し上げましょう、エンハンサーは倍音成分を付加・増幅するプラグインです。
つまるところエキサイター(倍音成分を強調するプラグイン)と同義と言っていいでしょう。

Waves Vitaminの場合

非常に効果がわかりやすいので、エキサイター・エンハンサーとしてWaves Vitaminというプラグインを使って変化を眺めてみます。

まず、ノコギリ波をA3(440Hz)で鳴らしてみます。そのときのアナライザーの表示は以下の様な感じです。

ノコギリ波(A3, 440Hz)

ノコギリ波(A3, 440Hz)

で、これにVitaminをインサートしまして、変化をわかりやすくするために右から2番目の周波数帯域、具体的には2k〜8kHzを盛ります。
Vitamin1

この状態のアナライザーの表示を見比べてみましょう。左側がBefore、右側がAfterです。

2k〜8kHzを盛った結果

2k〜8kHzを盛った結果

ご覧のとおり、明らかにアナライザーの表示が異なっていることがわかります。
Vitaminは手動でこんな風に盛りたい周波数帯域を指定して盛るということができるプラグインで、ちょうど盛ったあたりの2k〜8kが盛り上がっているのがわかると思います。

盛り上がる、つまりエキサイトするのでエキサイターと言います。すいません冗談です。Exciteは「刺激する」とか「盛りたてる」という意味があるので、そういう他動詞的なニュアンスだと思います。

ちょっと脱線しましたが、同じように今度は低域を盛ってみましょう。
Vitamin2

このとき、同じようにアナライザーで見比べてみると以下の様な感じになります。聴覚上も低域が増えて厚い音になります。

2k〜8kHzをエキサイターで盛った結果

400Hz付近を盛った結果

……という具合に、エンハンサー、エキサイターを使うと特定の周波数の成分を増幅させる、盛るという効果があります。
EQは「特定の周波数を指定して、そこだけ原音に対してピンポイントに伸ばしたり減らしたりする」のに対して、エンハンサー・エキサイターは「原音にプラスして盛る」という違いがあります。つまり無い音を付加してオケに迫力をつけられます

で、倍音成分というのは音の厚みとか、あとその音色をその音色たらしめる成分であるため、ここを伸ばすことで音色自体を大きく化かすことなく厚みや抜けを付加することができます。

「サウンドにパンチを効かせる」などの曖昧な説明は、例えばアタックに関係する周波数なんかがエンハンサーの影響で増して聴こえが良くなるから、という意味をセールストーク風に書いたものだと思います。多分。

何をやっているのかよくわからないエンハンサーの場合

さて、Vitaminは「マルチバンドハーモニックエンハンサー」というプラグインであり、結構操作画面もリッチで見やすいので、なんとなく効果が視覚的に得られやすいです。

しかし、多くのエンハンサー、エキサイターは冒頭で紹介したInfected Mashroom Pusherのように「よくわからないけどつまみを動かすと盛れる」という不思議な挙動を示すものであり、まだちょっと直感的に理解できません。

というわけで、再度Infected Mashroom PusherのMedia Integrationのページにある説明をよく見てみましょう。

Pusherのパラメータ

Low: 低域のエンハンスを、指定されたノート/周波数を基点に適用します。キックやベースのキーに合わせて、ミックスに最適なドライブ感を得ることができます。
Body, High: 中域、高域のエンハンスを調整します。
(以下略)

どうやら、LowとBody、Highでそれぞれ低域、中域、高域と指定しているようです。特にLowは「キックやベースのキーに合わせて」ということで指定した周波数を基点とするようです。

これまでにVitaminで実験して得られた結果から類推すると、以下のことがわかります。

  • 「Low」は、基点にしたキーの倍音成分を勝手に盛ってくれる
  • Body、Highは、Pusherが予め想定している周波数帯域の倍音成分を勝手に盛ってくれる

で、Lowの「基点にしたキー」というのは、Lowツマミの真ん中にある「D1」などのボタンで、例えばA4とかにしたらきっと440Hzの倍音成分(880Hzとか)を盛ってくれるようになるのでしょう。

BodyとHighは詳細な設定がないのは、おそらくこのプラグインの役割によるものでしょう。
つまり、Pusherはクラブサウンドのエンハンスに特化したプラグインであるため、その核となるキックやベースといった低域成分の音色については詳細な設定ができるようになっており、それ以外の成分については大雑把なエンハンス、という割り切りがなされている、と考えられます。

このように、世の中にある沢山のエンハンサー、エキサイターのうち、「簡単操作でサウンドに抜けやパンチを」とうたっているものの大多数は、あるジャンルにとって都合の良いバンドがプラグイン側であらかじめ設計されているタイプのエキサイターであると言えます。

言い換えると、よくわかんないけどトラックに挿すと音が良い感じになるという初心者垂涎な言葉で表せます。つまりこれが数多のプラグインに見られる体育会系なセールストークの正体なのでしょう。

まとめ

エキサイター・エンハンサーの正体をVitaminで実験しつつInfected Mashroom Pusherの説明文から考察した記事でした。

「よくわからないプラグイン」はこんな風に実験して定量的に効果を見つけることでその正体がわかり、一般化するとこんな風にどんな似たようなプラグインが出てきてもその効果を類推することができるようになります。

最近のWavesは特にイージーオペレーション特化の初心者向けプラグインをたくさんリリースしていますが、結局本記事に書いたような内容の中身がちょっと違うバージョンですので、「これを使えばミックスが神に!」みたいな魔法にはなりえないことはなんとなく理解していただけたのではないでしょうか。

なので極論、Vitaminのようなマルチバンドエンハンサーがあって理屈を理解していれば他のエンハンス系プラグインは要らないといえば要らなかったりします。ちなみにGold Bandleに入ってます。よくわからなかったらプリセットを使えば大体の楽器に対応できますし。
WAVES ( ウェーブス ) Gold Bundle | サウンドハウス
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