ありんこ書房

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同人音楽にまつわるいくつかのステレオタイプな勘違い

      2017/02/15

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思い込みでしかないという話です。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。

同人音楽の当事者ではない方、いかがお過ごしでしょうか。
アマチュアバンドマンでもフリーの音楽家の人でもいいのですが、90年台から続く同人音楽シーンというのは本当に不思議な文化でして、あらゆる音楽シーンとは違う特有のものが形成されています。

で、本記事で同人音楽とはなんぞやという話は別にするつもりはないのですが、このような「シーンの外側に居る人達」から見た時、どーもそんなこと無いのにそう勝手に思い込まれているというあれこれが有るように最近思えましたので、いっこずつ否定してみることにしました。

勘違いあるある3選

題しまして「ステレオタイプな勘違いあるある」。

すなわち「同人音楽は」という接頭辞で初めて、以下の見出しにつなげた場合「あ〜そうかもね〜」と納得しそうになりますが必ずしもそうとは限らないという話をしていきます。いわゆる命題の否定です。

勘違い1: 二次創作である

「同人」という単語がついた時点でどういうわけかああ東方アレンジねとかつなげる人が本当に居ますが必ずしもそうではありません

同人誌の文化が二次創作のカテゴリがとっても多い、というか目立つのでそういうふうに捉えられがちですが、もともと同人というのは「同じ志をもった人のコミュニティ」を意味します。

同人とは – Weblio辞書

③ 志・好みを同じくする人。同好の士。仲間。

従いまして「同人音楽」というのは「メタルが好き!」とか「ケルトが好き!」みたいな人が集まってそういう音源作ったりして頒布して共有するようなシーン全部を指すことができます。

事実、同人音楽の最大市場といえるM3の参加サークルはたくさんの一次創作であふれかえっており、そこからメジャーデビューするユニットも存在します。Sound Horizonなんかその最たる例でしょう。Sound Horizonは言うまでもありませんが主催のRevoさんの完全オリジナル楽曲ですので、一次創作です。というわけで反例が出ましたのでこの勘違いは否定されます。

この勘違いが生み出す悲劇は、他人の褌で相撲を取ってんじゃねえって何もしてないのに難癖つけられることがあることでしょう(著作権侵害に嘆くような発言をした時とか)。

二次創作カテゴリが多いのは事実ですが、「同人音楽=二次創作」という解釈をしてしまうのは完全に誤りです。早とちりとステレオタイプはここで捨てましょう。

勘違い2: 商業音楽よりクオリティが低い

「同人音楽」という字面を見た瞬間になんだか色眼鏡で下に見る人がいるんですが、これも「必ずしも当てはまらない」というのが実際です。

話をするより耳で聴いたほうが早いでしょう。

終天の薔薇 / エミルの愛した月夜に第III幻想曲を

六弦アリス / 被検体一号 エドワード

いかがでしょう、サウンドもアレンジも全くチープさを感じさせません、下手なインディーズよりレベルが高いかと思います。っていうか動画の完成度が高すぎます
というわけで反例を示しましたので、「同人音楽ならば、商業音楽より完成度が低い」も必ずしも当てはまらないことが言えます。え、なに、大したことない?まぁまぁ意地を張らずに

クオリティが低いどころか、前節で出しましたSound Horizonのように、メジャーデビューする人が存在する程度にはそのクオリティは高い水準であり、どういうわけかうじゃうじゃ居るのが実際です。音楽だけではなくWebとかジャケットのアートワーク方面もそんな印象があります。
(参考記事: バンドマンと比べて、同人音楽のCDジャケットの完成度が高すぎる件。)

一方で「そんなにすごくない」のも当然あるでしょうし、そのへんの格差とか人口分布は調べたわけではありませんが、それこそインディーズバンドとか商業でも平均の違いはあれど差異は生まれるものではないでしょうか。

個人的には商業音楽シーンとの違いはQ(Quality, 品質)・C(Cost, 費用)・D(Delivery, 納期)の平均値だと思っていて、同人はCやDを度外視してQを徹底的に高めることが赦される場所なので、クオリティも際限なく上がるのかなーって思ったりもします(商業でそんなことやってたら予算と納期がメチャクチャで仕事になりません)。

この勘違いで起こる悲劇は、「同人音楽なのにこのレベルはすげえ」という無意識の偏見を込めた感想をバラまく危険があることです。カテゴリを十把一絡げにするのではなく、自分の目・耳で確認したものを絶対的に評価できたらクールですね。

勘違い3: 儲かる

カネ儲け?できるわけないじゃないですか。

実際やらなくても机の上で計算するだけで見えてくるので、
よくあるパターンとして、「CD-R自主制作 + 印刷周りを委託」というケースで考えてみます。

合計のCD1枚あたりの制作費は 84 + 137 + 473 = 694円です。もっと削るとしたら「業者さんに委託するのではなくジャケットも自主制作」というやり方で、

が必要になります。この場合も合計すると84 + 5 + 47 + 152(4ページと仮定) + 100 = 388円。バックインレイなどを計算してないので実際はもうちょっと増えると思います。

これを1,000円で頒布すると、1枚あたりだいたい300円(業者)/600円(自主制作)くらい粗利が発生します。では本当に儲かるのか計算してみましょう。

  • 業者に100枚作ってもらったら、コスト69,400円 → 損益分岐点は227枚 → 100枚しか作ってないので明らかに赤字
  • 自主制作で50枚作ったら、コスト19,400円 → 損益分岐点は32枚 → 32枚以上売れればなんとかなるけど50枚自主制作するのは超大変、それ以上になると労力に利益率が見合わない、プリンタ等への投資を計算するとやはり厳しい

……業者委託の場合、7曲入りCDを倍の2,000円で売っても不文律により高いとみなされて売れない可能性が高いので、やっぱり相当無理があることがわかるかと思います。

しかもこの試算、交通費・宿泊費と即売会の参加費その他経費を計算に入れていません。おまけにPRが未熟な無名同人屋でも完売する前提というトンデモ計算です。従いまして99%赤字、損益分岐点に到達するだけでも一苦労と思っていただいて差し支えありません。

というわけで基本的に無理、または非常に困難ということがなんとなくわかると思います。

この場合の打開策は「コストが安いネットを主軸に活動する」「販売価格が高くても通用するシーンに行く」「委託含めて何百枚と売り切る壁サーになる」などの方法が考えられますが、儲けるの「だけ」が目的なら他の手段で普通に起業したほうが早そうですね。あれ、ということは同人ゴロなんてほぼ中傷用のレッテルにしかならない?

おわりに

最後の方なんかちょっと熱入っちゃいましたが、同人音楽に見られるステレオタイプな勘違いをひとつずつ潰してみました。なるべく客観的になるように、論理的なようなそうでないような書き方にしてみました。

コミケの同人誌でも9割のサークルは赤字みたいな話を聞きますし、少なくとも殆どの人は「利益を度外視して凄いものを好きなように作っている」と考えるのが自然そうです。

では、それでも同人音楽をやる人が後を絶たないばかりか、スペースの取り合いが激しくなるくらいどんどん増えていくのは何故でしょう?

愉しいからに決まってるじゃないですか

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