初心者DTMerのための「なぜ上級DTMerはトラックが多いのか」という考察
2016/11/07

論理的に考えると少ない多いは本質ではなさそうです。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。
ときおり、SNSなんかで「トラック数」について他愛もない話がなされていることがあります。
このとき見かけるのが「トラック数が○○しかない」という表現。”しかない”というのがどうも優劣を語っているようで気になりました。
もちろんコトの本質は「いい曲であること」ですので、トラック数の多さ少なさはあんまり関係がないはずです。しかし、わたしたちの印象として「上級者はたくさんトラックを使う」というように思えます。
もしかしたらテクニック的な秘密があるのかもしれないので、ちょっと考察してみました。
目次
なぜ上級者はトラック数が多い(ように見える)?
実態はさておき、イメージとして「できる音屋はトラック数が多い」みたいなのがあるじゃないですか(なんかビジネス書のタイトルみたいですね)。
仮にそうだったとして、じゃあなぜそのような差が生まれるのか?ひょっとしたら、初心者〜上級者にかけてテクニック的な理解の差があって、それが曲のクオリティに結果的に影響するのではないか?と思いました。
もしテクニック的なところに理由があるとすれば、「トラック数が多い」という「結果」を導き出すなんらかの秘密があるかもしれません。そこで、なぜトラック数が多くなるのか、現在の知見で分かる範囲で考察してみました。
仮説1: ジャンルの「型」を理解しているから
ジャンルの「型」によってトラック数の基本はある程度設定されると考えています。
バンド編成の場合、ギター、ベース、ドラム、ボーカルですが、ボーカルはハモリ、ドラムはキットピース、ギターはツインギター、というふうに同じ楽器で複数トラックを持つパターンがあります。これを本記事では「型」と呼んでみましょう。
上記のように、ジャンルによって「どういうふうにトラックを組んでいくか」というのがある程度あるはずで、自ずとジャンルによってトラック数の増え方も法則的になるはずです。
EDMであれば、ベースだけでもサブベース、リーチベース、ワブルベース……といった具合に3〜4トラック現れます。これも「知っている人」からしたらわかりきった「型」です。上級者はこれらの「型」を理解したトラック構成が自然とできるようになっていると考えられます。
というわけで「初心者はトラックが少ない」とするならば、このような「ジャンルによってどの音色がどういうトラック構成になるか」という知識の差によるのかもしれません。「オケに厚みが出ない」の正体もここにある気がします。
仮説2: ミックスの時楽したいから
トラックを分けるとミックスがちょっと楽になることがあります。
バンドサウンドだと、ドラムは普通キットピースに分けて管理します。理由は簡単で音の特性が全く違うからEQやボリュームも異なるためです。
また、トラックを分けることで、それぞれのトラックごとにプラグインやオートメーションの処理が可能になったり、MIDIも別のものを扱えるので見た目にわかりやすくなったりします。つまり操作上のメリットを優先してトラックを細かくわけるということをする場合があります。
例えば、ピアノだと「低域と高域で周波数の分布が違ってEQがめんどくさい」という理由でトラックを分けることがあります(分けないでダイナミックに処理したりもします)。
ほかには、ボーカルのハモリについては「広がりをもたせたい」という理由で録音した歌を2トラックに複製して左右に振って空間系エフェクトで更にステレオ感を持たせるとかやったりします。
更にわかりやすいところだと、リズムギターとリードギターは音作りがまるっきり違いますのでトラックを分けます(これはリズムギターで音圧をキープする目的もありますが)。
こんな風に、「ミックスの時分けたほうが楽だと思ったら同じ楽器でもトラックを分割する」ということをすると、自ずとトラックが増えます。上級者は「こうしたほうが楽」というのを知見として知っていると考えられます。
初心者〜中級者(わたしを含む)はそのノウハウが完全ではないので、「トラックを分けたほうがいいのに、分けない」という状態になっているのかもしれません。
仮説3: 音色を登場タイミングにかかわらず遠慮なく追加するから
ちょっとわかりにくい見出しですね。ゲーム音楽とかを作られる場合わかりやすいのですが、どんな音色を追加しても1トラックは1トラックです。
具体的には、わたしの場合曲全体(4分)で2小節しか鳴ってないチョイネタとかよくあるんですが、これでも当然1トラック使います。これが多いとトラックが増えますよね。
バンドサウンドの場合「バンド楽器+同期」という構成がほとんどなのであまり意識しないかもしれませんが、顕著なのは多分クラブサウンド系です。
クラブサウンドには「Raise」とか「Impact」といった通称で「一瞬鳴らすための音ネタ」というのが沢山存在していて、それはサンプルだったりシンセで作った音色をここぞの場面でちょっとだけ鳴らすのが曲中に散在しているのが特徴です。
EDMだと”Dance…”とか”Bass…”みたいな声ネタは有名ですね。あれも曲中ずっと鳴っているかといったらそうではなくて、要所要所にぽつぽつと入るものです。
で、そういう「ちょっとだけ使うネタ」のためにトラックを追加していくと当然どんどん増えるので、3分とか4分の曲であっても結果的に数十トラックになるという仕掛けなんじゃないかと思うわけですが、いかがでしょう?
特に近年のバンドサウンドのブレイクパートとかで見られる「一瞬EDMっぽくする」とかはジャンルが変化するのでトラック数も増えますし、あのへんは音源ソフトよりサンプルに依存するのでその傾向が強いように見えます。
ちなみにわたしも先程画面キャプチャに上げましたように「ちょっとだけ鳴る音」に何トラックか使います。同人音楽だとバンド系でも効果音とかたくさん入りますし、次々追加したら結構増えると思います。
初心者の人は「VSTの音源で頑張る」といった考えから入るとそもそもこういう発想に至らない(教えてくれない)ことがあるので、結果的にトラックが増えない傾向になるのではないでしょうか。
ただし、気をつけてほしいのはそれだけミックスで処理しなきゃならん音色が増えるって意味でもあることです。難易度が上がります。注意しましょう。
初心者の貴方が参考にすべきポイント
さて、「上級者はこうやってるからトラック増えてるかもしれない説」を3つ挙げましたが、では初心者の人が己の血肉とするためには何を参考にしていけばいいのか、という話ですが、単純です。
- ジャンルによってどういうトラック構成になるか調べる(先程のバンド、EDMのベースの例のような)
- 同じ音色でも「こうしたほうが楽だ」と思ったら別のトラックで管理することをためらわない
- フリーサンプルとかで雰囲気出そうだったら、ちょっとでもトラック追加してどんどん使う
トラック構成については説明しきれないので詳細は述べませんが、意外とSound Designerとかに書いてあります。
「同じ音色でも別のトラックで管理する」は、例えばベースの低域の処理を2トラックに分割して行うなどの小技があります。
(参考記事: ベースを歪ませると低音が痩せる問題を解消する方法)
ただ最初はよくわからないと思いますので特に意識しないでまずは作曲〜編曲の完成度アップに集中するのが良いと思います。どうせミックスはNeutronとかそれなりに便利なアイテムありますし。
(「それなりに」としたのは落とし穴があるにはあるからです。参考記事: 初心者が見落としがちな、iZotope Neutronでできない重要な3つのこと)
曲中にサウンドサンプルを載っけてオケをかっこよくするのはみんなやってますので初心者だからって遠慮しないでどんどんやりましょう。
フリーのサンプルなんかはMelodealerさんを購読するとたくさん拾えます。
まとめ
ひとことで言えば上級者は全ての目的を理解していて、そのための手段としてトラックを効果的に使うからではないかという話でした。
その形態が例えばジャンルの構成であったり、ミックスの都合であったり、「ちょいネタのためにトラック増やす」だったりするのではないかなーという考察です。というかわたしが運用する範囲だと実際に役に立つのがこの辺です。
ですが、なんとなくお察しの通り応用テクニックのたぐいなので、「トラック数が少ないからダメだ!」というわけではありません。シンプルなバンドサウンドだったら10トラックくらいに収まるのはこれまでの考察を省みても推定できるはずです。
というわけなので、「トラック数が○○しかない」という卑下は適切ではなく、「自分の目的に応じて操作したらトラック数がいくつになった、そしてそれは自分なりに導いた正解である」と考えれば、トラック数の少なさ多さは気にするものではないことに気付けるはずです。