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バンドサウンドのミックスにはCLOW’SCRAWの書籍がオススメ

   

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意外と知られていない同人ミックス本の紹介です。
御機嫌よう、蟻坂(@4risaka)です。

同人の畑から出ているミキシング本

ミックスに関する教則・ハウツー本はAmazonをあさると掃いて捨てるほど出てきます。
このうち、弊ブログでは特に超初心者向けのいろはを書いたものとして、石田ごうきさんの書籍を紹介してきました。

参考: 石田ごうき著「音圧アップのためのDTMミキシング入門講座!」は、ミックス初心者のためにある本でした。

さて、基本的な要素は上記の書籍をしっかり読んでおけば問題ないのですが、さらに応用をするとなるとどういった技術を身に付ければ良いのか?次の一歩がわからなくなるかもしれません。
このとき確実なのはひたすら実践して自分のモノにしていくというのが有効なのですが、加えてジャンルに特化したミックス手法を身につけるというのも一つの手です。

そこで、本記事では「メタル・ラウド系のバンドサウンドに向いたミックスの資料」として、CROW’SCLAWさんのMixing Tipsを紹介しましょう。

Mixing Tips 2014 – CROW’SCLAW BOOTH Store – BOOTH(同人誌通販・ダウンロード)

なんとこの本、商業ベースではなく同人音楽サークルから個人出版されているものです(ちなみに紙じゃなくてPDFです)。が、内容はガチなので「知る人ぞ知る資料」になっています。もったいないのでここで共有してしまいます。

内容の紹介

内容ですが、取り掛かりとしてミックスの目的から、EQやコンプなどの定番ツールに関する開設、そして具体的な活用例を順を追って述べられています。

必要性、目的から理解できる

冒頭、まずなぜミックスをするのか、ミックスダウンとは何かということについて述べられています。個人的にこれは非常に重要なポイントだと考えていて、
EQであればたとえばこの音色なら何Hzをカットして……みたいな具体的な数値だけ知っても目的に叶っていないなら無駄な知識にしかならないわけで、そこの意識づけを確かなものにしてくれるものかと思います。

引用: 7ページ「そもそも、ミックスダウンとは何かを考える」

大事なのは収録した音源をトラックに並べ、適切な音量に調整し、それぞれの楽器の役割に合わせて在るべき場所に再配置することです。加工は過程や手段であって、それ自体が目的ではありません。

言うまでもないんですが、twitterで「具体的に数値を述べたtweetがいいねされる」という現象を見る限りだと、この本質を見失っているというか目的を知らされないでミックスに悩む初心者は多いような気がします。

このほか、2Mixの狙い値やモニタリング環境など、基本的な準備環境についても持論を述べられており、「良いバンドサウンド」を仕上げるための考え方をまとめることができます。

EQ・コンプの目的を理解する

EQについてはQ値、カーブの考え方について基本的なところが述べられており、これはバンドサウンドのミックスに限らず基礎固めについて幅広く使える知識であるといえます。
周波数帯域ごとにどういう音が含まれるのかという話ですね(この辺は冒頭に紹介した石田さんの本のほうが直感的かもしれません)。

コンプについてですが、これは中々良くて、あらゆる種類のコンプについて詳細に述べられています
この「あらゆる種類」というのは、オプトコンプとかFETコンプとか、歴史上に登場したあらゆるコンプという意味で、「どの楽器に多く使われるか」というかたちでその特徴が説明されています。
一方で、種類に拘る必要はないという主旨の話もされています(デジタル信号処理の時代なのでそりゃそうなんでしょうけど)。

特にプラグインを使用する際にはある程度設定によってその特徴を似せることができてしまうので、個人的にはあまりこの構造から来る種類そのものを必要以上に重視するのは適切ではないと考えます。

このほか、エンハンサーやステレオイメージャー、ディレイなどの最近のミックスで使う空間系プラグインについても、その意義が説明されています。これは他の書籍でもなかなか見られないポイントではないでしょうか。

非常に具体的なバンドサウンドのミックス

さて、こちらの本はバンドサウンドのミックスに寄った内容になっています。
つまり、一般化するのではなく良質なバンドミックスを作り上げるという局所解を探しに行くような形になっていますので、設定について非常に具体的に書いてあります。

たとえばスネア。異様に詳細に書いてあります。
引用: 31ページ「スネアのイコライジング」 ※具体的な数値の部分は筆者により「〜」でマスク

過度の低音はベースなどの低音楽器に悪影響を及ぼすでしょう。それらを避けるためには、まずはHPFを入れることが必要です。主には〜〜〜Hz前後にHPFを入れ、カーブは〜〜〜/octあたりで設定すると良いでしょう。
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(中略)
:
他には、殆どの場合飽和しがちな〜〜〜Hz前後をカットします。他の帯域に影響が出ないように心掛けつつ、なるべく急激なカーブは避けるようにするとより自然に飽和感を取り除くことができます。
また、リムの響きを強調したい場合はトップ側の〜〜〜kHz前後か、もう少し上の〜〜〜kHzをブーストすることで突き刺さるような鋭いアタック感を強調することができます。
:
(略)

こんなレベルの詳細な解説が各楽器に渡って全て説明されています。ドラムだったらキック、スネア、シンバル、タムなど全部です。そしてバンドサウンドなのでベースやギター、ボーカルももちろん抑えてあります。

これ、一般的なミックス本だとあらゆるオケに適用させないと行けない内容になるので、結局「己の耳を頼れ!」に帰着してしまいがちなのですが、このようにポイントを絞って説明してくれることで、実践するときのポイントもまた理解しやすくなります。

もちろん、最終的にはモニター環境と自分の耳が頼りであり、「この通りに設定すれば良い」という話では全くありませんのでそこは注意が必要です(書籍中でも述べられていますね)。

この「具体的な楽器・音色ごとの作りこみ方」については、ギター、ベース、ドラム、ヴォーカル、アコースティック楽器についてそれぞれ詳細に書いてあります。他の音色については別の資料と組み合わせて応用していくと良いでしょう。
シンセやストリングスの音色の取り扱いについては(アレンジの側面から)少しだけ述べられている程度ですが、本質的なところは実践で理解できるはずなので問題ないと思います。

レコーディングの環境、位相、マイキング

打ち込みバンドサウンドだと解りにくいといえば解りにくいですし、そもそも音源によっては既に最適化されているのですが「位相被り」とか「マイキング」という観点でも説明されています。

EQもコンプも魔法ではないので、録音状態やアレンジ、音色の選び方(例えばスネアのインチ数とかチューニングとか)によって音のまとまりが最初からある程度決まるのは言うまでもありません。
これについても見落とさず、最終目的である「いい2Mix」を仕上げるための土台として詳細に取り上げています。

「打ち込みだからいいや」というわけではなくて、最近の音源だと例えばドラムだとトップマイクとボトムマイクがちゃんとあったりしますし(おまけに調整できますし)、ギターだったらキャビネットシミュのマイキングを詳細にいじれるという状況になっていますので、適当に済ませるわけにはいかないなーと思いました。

コラムが面白い

ミックスのTipsと直接関係ないコラムが章末に記載されています。

個人的には「M/Sプロセスのメリットとデメリット」というコラムが非常に興味深かったです。「低域が狂う」などの観点から「正体がモノラル信号であるリスク」について述べられています。
なんとなく「音圧を上げるための手段」として捉えるとなんだか痛い目に遭いそうだなとか考えていましたが、概ねそんな気がします。

まとめ

CROW’SCLAWさんのミキシング本は、ミックスの目的に始まり各ツールの役割や意義、そして楽器ごとの詳細な設定について解説されてある「知る人ぞ知る良書」であると言えます。

個人的に「バンドサウンドに特化した資料である」というところがポイントで、音色が多いオケとかその辺をカバーしようとするといくら書いてもキリが無くなるところを上手く切り出してまとめているところが非常に参考になりました。
実際バンドサウンドって登場する楽器が限られてくるので、あとはチューニングなどの細かい差を自分で考えて吸収するところだけに集中すれば良いということになります。

そして他の音色については基礎知識があればなんとかなりますし、それこそ冒頭に紹介した石田さんの書籍と組み合わせると大体設定が見えてきますので、とりあえず「アマチュア・ハイアマが聴かせられるレベルのものをまとめる」という意味では十分過ぎるレベルでしょう。

気になる価格は2,700円と商業書籍に迫るレベルですが、事実上プロのエンジニアのノウハウが詰まった内容ですので十分に元は取れるものだと思います。

Mixing Tips 2014 – CROW’SCLAW BOOTH Store – BOOTH(同人誌通販・ダウンロード)

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